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2008年12月 5日 (金)

☆第1章 Boy Meets Girl☆  第15話

 
 

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From: 成田
Subject: Re:ありがとう
とてもドキドキしました。まだドキドキしていて、
コーヒーをスプーンでカチャカチャしています。
今日はいい日でした。ありがとう

 
 
Subject: Re:ありがとう
To: 成田
ドキドキしてるうちに探してください
\(#⌒0⌒#)/おやすみなさい�P
 
 
From: 成田
Subject: Re:ありがとう
大好き\(#⌒0⌒#)/大好きです。
いまの僕は二秒で見つかりました。
ありがとう
 
 
あなたが大嫌いな不倫が始まった日よ?いい日なの?
携帯画面見ながら苦笑い。
でも、かわいい。大好き。大好き。
 
 
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
 
 
From: 成田
Subject: Re:お疲れ様です鶚
サンドイッチ作ったよ。たまご焼きの。たべる?
 
 
サンドイッチ?花火は?
と思いつつ、半年くらい前に成田さんの日記で
サンドイッチのことを話してて
 
「マヨネーズのゆで卵サンドより焼きたまごサンドが好き」
って話をしたの思い出した。
覚えててくれたんだ。
いつもなんでも覚えててくれるんだ。
 
すぐに続けて2通目。
 
 
From: 成田
Subject: Re:お疲れ様です鶚
たまご焼きのサンドイッチ持ってドライブです。どこに迎えに行ったらいいですか?
 
 
この間、2人でご飯食べに行った時に待ち合わせしたのと同じ場所を指定し、
私は荷物をつかんで会社を飛び出した。
 
「サンドイッチ持ってドライブです。」
 
こんな素敵なデートの誘い、今までないね。
腐るほどの恋愛経験、酸いも甘いも知り尽くしたような顔をして、
そんな一言にコロっといく。
 
私なんてそんな程度の、
というようり女なんてそんな程度の。
 
 
「花火、売ってないよ。」
この間と同じ場所で成田さんの赤い車を見つけ、
ドアを開けるなりそう言ってみた。
 
いわゆる照れ隠し。
 
「お疲れ様。」
成田さんは私の精一杯の照れ隠しを無視して言った。
 
「お疲れ様です。」
仕方なく、目を合わせずに言いながらシートベルトを付ける。
 
「食べるでしょ?サンドイッチ。」
助手席の足元に置いた紙袋を指さす。
「うん。」
まだ照れくさくて、でも嬉しくて、笑う。
 
成田さんが車を出す。夜の街。もう9時過ぎかぁ。
 
熱に浮かされたようにどうでもいいことを喋る。
黙っているとどうでもよくないことを喋りそうで。
 
オークスのこと、花火のこと、サンドイッチのこと。
 
夜の明治通りを車は走る。
 
マヨネーズが嫌いだから、サンドイッチは玉子焼きサンドがいいの。
花火が好きで好きで仕方ないの。
秋山がG1勝てるわけがないって思って切ったら2着だった。
 
湾岸に出る。
 
成田さんは私のつまらない話を楽しそうに聞いてくれる。
 
どうしてこの間、手つないでくれたの?
好きだって言ったら拒否みたいなのしたくせに。
どうしてこうやって会ってくれるの?
 
今にも口に出しそうだけど言わない。
言ったところで何も生まれないから。
 
成田さんはお台場海浜公園の駐車場に車を入れた。
木立の間から東京湾。嫌味なくらいにキラキラ光るレインボーブリッジ。
 
はい、って紙袋から取り出したのは、お皿にのったサンドイッチ。
きれいにラップしてあったけど。
 
「お皿ごと?」
パンのシールかなんか集めてもらえそうな白いお皿。
 
「時間、なかったの。仕事終わって思いついた。サンドイッチ作ろうって。」
恥ずかしそうに言う成田さん。
どうぞ、と手で促されたのでラップをはがす。
 
「覚えてた?玉子焼きサンドの話。」
「覚えてるよ。好きだって言ってたじゃない。」
 
玉子焼きサンドはおいしかった。
正直言えば味わって食べてるような余裕はなかったけど、でも嬉しくて、
 
玉子がふわふわしてて優しい味がした。
 
サンドイッチを食べて、少し表に出た。
海浜公園の人工海岸を歩く。
 
「花火、あればよかったんだけど。」
申し訳なさそうに成田さんが言う。花火なんてどうでもいいのに、
「したかったな。花火。入院する前に。」
思わせぶりなことを言ってみる。性格悪いんだ、私。
「そんな死んじゃうみたいなこと言わないでよ。」
成田さんは悲しそうな顔をする。もっと見せてほしい。
悲しい顔も、怒った顔も、嬉しい顔も。
 
「さちさん、顔文字の意味教えてよ。」
えーっ、と困って海の方を見る。海岸沿いに寄り添うカップルがいっぱい。
こんなところでいちゃつく程、もう若くもないんだな、
と実感して少し切ない。
 
「顔文字辞書、入れたらわかるよ。送ってあげるね。」
 
近くにあったベンチに座り、携帯出して、辞書を添付して送る。
「お家に帰ったら見つけてね。」
 
それからしばらく、海を見ていた。夜の海。
 
「中学生の時って何してた?」
相変わらず沈黙が気づまりで、頭にふと浮かんだことを聞いてみた。
「えー?中学生の時?」
どうしてそんな話するの?とも聞かず、考え込む成田さん。
「バトミントン、してたなぁ。」
バトミントン?そればっかりって、私は笑う。
 
「僕の学生時代はバトミントンしかないんだよ。さちさんは?」
「私?」
「さちさん、男の子を犬のように振り回してたんでしょ?」
成田さんはいたずらっぽく笑う。
 
あー、まりこのバカ。ほらこの人、
ちゃんと聞いてて覚えてるんだから・・・
 
「私なりにちゃんと恋をしていたの。」
うん。それが真実。
「恋かぁ・・・」
 
「恋してたでしょ?彼女いなかったの?」
「なんていうかさぁ、口もきいたことない同士がさ、“付き合ってください”って告白されて
“いいよ”で、翌朝から手つないで学校来る、みたいなのにすごい抵抗があったんだ。」
 
あっ、わかる気がする。なんとも思ってなかった人から告白されて、
“別に好きな人いないし付き合ってもいいかなぁ”って相談してきた女友達が、
次の日から突然新しい彼氏に大恋愛してて・・・
そんなこと何度もあった。
それって恋愛なのかなぁ?っていつも不思議に思ってた。
相手なんて誰でもいいのかなぁ?って。
 
「なんかそれ、すごいわかる。」
「わかるでしょ?さちさんはわかると思った。」
 
11時もまわって、車に戻った。
来た時とは逆の道順で走る赤い車。
 
しばらく黙っていた。
 
話さなきゃいけないことがたくさんあるようで、
でも別に話さなきゃいけないこともないような気もして。
そんな複雑な気持ち。
同じく黙っていた成田さんも一緒の気持ちだったのかなぁ?
 
赤信号で停止した拍子、不意に成田さんが口を開く。
「で、どうなの?」
 
どうなのって、なにがどうなのか、さっぱり。
 
「なにが?」
動じてないふりして笑顔で言う。
「あなた、全然自分のこと言わないでしょ。病気のこととか。
 こっちは何もわからないから心配なわけよ。」
前を見たまま。車のライトに照らされて、困ったような横顔。
 
「あっ、大丈夫だよ。別に・・・」
「大事なことは何も言わないよね、さちさん」
 
左手で、私の右手を握る。嬉しくて、ギュッと握り返す。
 
「だって怖いんだもん。」
 
口に出してみて、あっ、怖いんだ、私。と気が付く。
 
怖いから、恋をしたのかな?
 
「わかるよ。怖いよね。でも大丈夫なんでしょ?」
「わかんなーい」
私は手を握ったまんま成田さんの肩に頭をのせる。
ちらっと私の方を見て、
 
「さちさんのことは、片目で見ることにしよう。それが丁度いい。」
 
と言う。
 
信号が青に変わる。静かに走り始める。
 
「なんで?」
「両目で見てると、頭おかしくなってくる。魅力的すぎて。」
 
言わないでしょ?普通そんな台詞?と思いながらもうれしくて、
握っている手に指をからませる。
「ホントに死んじゃうかもしれないよ?」
意地悪心を出して、成田さんの目をのぞきこみながら言ってみる。
 
成田さんは悲しそうな目をして、
つないでいる私の手を持ち上げ、甲に軽くキスをした。
 
この人、大好き。しつこいけど、改めて確信。
怖いからなんかじゃない。
 
家のマンションの裏に車が止まった。シートベルトを外して
すかさず抱きついた。
 
「大好き」
 
反則だぜぇ、女にこんなことやらして。でもここまでやったから、
そのまま離れ様に唇に軽くチュっとしてみた。
止まらなくなって、唇の周りを軽く吸う。
 
すっごい動揺。
「なにやってるかわかってんの?」
動かない、されるままの成田さん。声は優しい。
 
「わかってるよー」
首を傾げて答える。じっと私の目を見てた成田さんが
自分から唇を合わせてくる。軽く。
 
「もっとぉ」
囁くと、
「ここじゃやばいよ。」
とあせってエンジンをかけた。
 
200m位先、公園と幼稚園の間。
車もほとんど通らない。
 
不器用な舌を誘導するように吸ってあげる。
 
「ダメだよ。」成田さんは呻くように何度も囁く。
「どうしてダメなの?」
薄くて冷たい成田さんの唇、夢中で吸いながら聞く。
 
「不倫だよ・・・」
絞り出すように苦しげにその言葉を口にする。
 
「つまんないよ。一気に安っぽくなっちゃうよ。」
 
「安いとか高いとかじゃないでしょ。事実でしょ。」
喘ぐようにささやく。
 
その口がそれ以上つまらない言葉を吐くのは許せない。
欲情とかそういう物とは無縁に、
ただ彼の気を私の方だけに向かせるために
私はひたすら唇を合わせた。
 
「でも好きなの。」
好きで好きでしょうがないの。
 
「ダメだよ。もう帰らないと。」
 
成田さんがそう振り切るように言って、
半分無理やり車を発車させるまで、ほんの5分くらいのこと。
 
ダメだって散々言ったくせに、家に帰った後なぜか
「ありがとう」ってメールが。若干のぼせ上がり気味。
 
 
そうね
不倫が始まった日。
長い夏が始まった日。
 
 

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