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2008年12月 5日 (金)

☆第1章 Boy Meets Girl☆  第16話

 

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今週末はダービーだ。

 
ダービーって響きは、どうして心がこんなに弾むんだろうね。
 
皐月賞で勝ちきれなかったフサイチホウオーの人気がダントツになりそう。
牝馬が11年ぶりにダービー参戦。
武豊のお手馬、アドマイヤオーラに岩田騎乗が決まり、
前代未聞、武豊がダービーに騎乗馬なし?という事態になりかけたけれど
結局、岩田のお手馬だったタスカータソルテに決定。
(タスカータソルテは私のPOG指名馬なのだけど、
まぁそれはここではどうでもいい話ね。)
 
私は金曜日の朝から入院する。
 
土曜日には一旦家に帰れるらしい。
別にダービーだから帰してくれと頼んだわけではなくて、
土日は特にすることもないから帰っていいということなんだけど。
 
入院や手術にたいする不安はあるけれど、
今はあまり感慨もない。
 
要は上の空。
 
初めての全身麻酔や手術よりも、
あの人がこれからも私のそばにい続けてくれるか
そのことだけが不安。
これからどうなっていくのか
それだけが不安。
 
不安で仕方なくて、たくさんメールを送った。
送った分だけたくさん返してくれた。
 
\(#⌒0⌒#)/ って、解読した暗号連発。
 
さよならしてから、24時間もたたない内にもう会いたかった。
会いたいって、思い切ってメールしてみたら、
 
「ダメです。入院の準備をしてください。
 僕はまだ使命があります。」
 
と却下されてしまった。
 
若干ふてくされていると、すぐにもう1通。
 
「大好きだから、我慢しなくちゃいけない時もあるんです。」
 
携帯の画面に「はーい」とつぶやく。
バッカみたい。子供みたい。
 
 
でも、使命ってなんだろう?
 
 
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
 
 
5月23日
 
From: 成田
Subject: コレ。
買ってみた。
 
 
夜9時過ぎ、メールが来た。
今日は会えるかな?と思ってて、でも仕事終わりの時間になっても
全然連絡が無いからダメなのかな?って
失望しながら都営新宿線に揺られていた。
 
写真付き。
 
花火セットの写真。
 
あっ、昨日の使命って・・・
 
From: 成田
Subject: コレ。
川で待ってます。
 
私は、東大島駅で電車を降りると、
一度も止まらず荒川土手まで走っていった。
 
 
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
 
 
今日は少し風が冷たかった。
最近は、日によって気温がずいぶん違う。
 
もうすぐ梅雨になる。
 
梅雨が終われば夏が来る。
 
大島小松川公園を通って、荒川の土手に出た。
 
副作用で、ところ構わずノボせて汗をかく私は薄着の癖がつき、
今日も半袖のカットソーの上に薄いジャケット1枚。
風の冷たさに、ここで花火ができるのかな?と多少不安になる。
 
G1ファンファーレ。
携帯が鳴る。もちろん成田さん。
 
「今、さちさん見えてるよ。」
 
線路の方から、こちらに向かってくる人影。
ぶらさげているのはバケツ?
 
私は電話を切り、走っていく。
 
「大変でした。」
 
両手に花火の入ったビニール袋と、バケツをぶらさげて、成田さんは言う。
 
「ありがとう。すごい嬉しい。」
 
私は飼い主にじゃれる犬のように、成田さんの腕にしがみつく。
 
「転ばないでね。」
 
そのまま、土手を降りて河川敷まで。
風が少しでもよけられる線路の下まで行った。
 
「仕事が終わって、ダッシュで店しめて探したよ。」
 
すぐに消えてしまうライターで、早速花火の先に火を付けはじめる。
 
「どこにあったの?」
「ドンキ。でも多分これ、去年のだよ。ホラ。」
パチパチパチと火がつく。火薬の匂い。
赤と黄色に光る花火は、目に痛いくらいに明るくて綺麗だった。
 
でも数秒で消えてしまう。
 
「湿気てるでしょ?そんな気がした・・・」
残念そうな成田さん。いいのに、そんなこと。
あんな私の戯言を、聞き流さずにちゃんと探してきてくれた、
それだけでもう、いいのに。
 
とは言っても、花火は湿気てる上に、風もやっぱり強く。
一度火が消えてしまうと、次の花火に火を付けるのが難解になる。
私達は慌てて、次から次へと火をつける。
 
「僕は、花火をしてるさちさんを見たくて花火を買ったのに、
 これじゃ忙しくて何が何だか・・・」
 
ライターの火に指の先が当って、
”熱っつい!”と手を振りながら成田さんは言う。
 
赤や黄色や金色、銀色。目の前に弾ける光。
 
「でも綺麗だよ。綺麗、綺麗、きれいー!」
私は光の渦にはしゃぐ。
 
「さちさんは、わかんないね。子供なんだか、大人なんだか。」
成田さんはそう言いながら、優しい目で私を見て笑った。
 
 
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
 
 
「こんなこと、やってちゃいけないの、わかってるんだ。」
 
誤魔化されてばっかりいるほどバカでもマヌケでもないのね。
 
買ってきてくれた花火の半分を燃やして、
あとの半分はまた今度ねって。
 
また今度。
 
とりあえず、もう1回花火はしてくれるんだ。
 
まさしく祭りの後のような静けさの中、成田さんは言った。
 
「自分が何やってるかわからないんだ。」
 
私もそうだよ。
自分が何やってるか、常にわかって行動している人なんているの?
 
口にする言葉とは裏腹に、彼の唇は無防備だった。
だからすかさず、乱暴気味に成田さんの頬っぺたを押さえて
自分の唇を合わせた。
 
ごまかし、その場しのぎ、現実逃避。
 
「あなたは、全然わからないよ。子供だか、大人だか、
考えているのか、考えていないのか。」
 
「何も考えてないよ。私は成田さんが好きなの。それだけ。」
 
それだけ。それ以上いったい何が必要?
 
 
 

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