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2008年12月25日 (木)

☆第4章 最後の夏休み☆  第18話

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朝、起きられなかった。

ひどい寝不足ってわけでもないけれど
無気力、何もしたくなくって、起き上がることができなかった。

指一本動かすのもつらい。
つらいけれど、携帯バイブ。
Eメール着信ランプを横目で確認しつつ、ゆっくりと手を伸ばした。


From: 成田
Subject: さち
おはよう
大好きだよ


それで決定打。
なぜだか、その文面が別のもののように見えた。

お前なんか死んでしまえと、
地獄に落ちろと。

悲しくて、腹ただしくて、でも感情が動くのすらだるかった。

もう絶対に起きれない。
そのまま、眠った。

途中何度かメールがきて起きた。
簡単な返信を返してまた寝て。

何もしたくない。
何も考えたくない。


成田さんはドジョウ狩り。
どこまで行くのか知らないけれど、朝早くから。
きっとそれは本当なんだろう。
ドジョウ狩りに行った後の行先は知ったことじゃないけれど。
だって今日は、ほら、火曜日。


Subject: Re:今日は
To: 成田
午前休します


9時になって、会社に休みのメールを送った後、
成田さんにもやっとそれだけ打った。

「どうしたの?具合悪いの?」
すぐにそう返事が来たけれど、
まともに答える気にもならず、一行だけ。

「悪くない。だるいだけ。」

だるい。
私はいったいどうしちゃったんだろう?

半寝でまどろんでいると、平穏を壊す爆撃のように蝉が鳴き始める。

泣き声は部屋の中を回転する。
右からも左からも上下からも蝉の声。
私は蝉の声に包まれている。

寝ているんだか起きてるんだかさっぱりわからない状態で涙が出る。
泣くだけの力すら使いたくないのに。
感情は動かなくても、ただひたすら涙が出て止まらない。

夏に追い立てられている。

全ては夏の終わりに向かって収束していこうとしている。
そんな風に思ったら、
全ては私のこの思いを終わりに向かって収束させようとしている。
そう展開した。

ひどい被害妄想。

ずる休みして家で一人本気泣き。
なんだかこういうこと、昔あったような気がする。
ガキじゃないんだからさ。いい加減にしようよ。

自分のやってることをわかってるんだろうか?
私は何もつらくないとでも。

疲れた顔の成田さんしか最近見ていない。
でも、疲れた顔して会いに来てくれるから、「会いたい」って
いつも言ってしまう。

私には時間が無いから。
時間が無いような恋を許容してしまったから。
ただ、自分の欲しい物は絶対に手に入れたいという欲求だけで。

1ヶ月後の自分を思うと血が凍る。真夏なのに全身が冷たい。
一緒にいる時間はあんなに甘くて優しくて、幸せに包まれている。
でも、一度さよならすると、1ヶ月後の自分を想像する。

全てが消えてしまう。今の私は死んでしまうんだ。

幸せな時間と、そうでない時間のギャップは日に日に大きくなっていく。
まるで天国と地獄。
それでもあの人の前では笑顔しか見せたくない。絶対に。

あの人は何も考えないんだろうか?
少しつらいけど、でも大丈夫って。悲しいけども仕方ないって。
それで元の生活に戻っていくのかな?

愛してる。
愛してる。
愛してる。

私は呟く。

助けて
助けて
助けて

助けてって、
誰が私を助けられる?


36年生きてきて、好き放題、自分勝手の挙句に嵌ってしまった。

夏の迷路。

あんなに欲しかった夏休みは、
全て終わるまで出て来れない迷路の入口だった?

今までの自分の生き方すら、
幸せの意味すら否定するような力で、
私の行先を見えなくする、迷わせる。

劈くような蝉の鳴き声、
包まれて私はただ怯える。


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜


しばらく眠った。
お昼過ぎに目を覚ました時には、
諦めか、開き直りか、わりと普通に体を動かせた。
もうこれ以上家に一人でいるのが嫌だったから、
虚ろな頭を持て余しながら、会社へ向かった。


Subject: Re:
To: 成田
どじょうとれた?


まだドジョウ狩りしているのかな?
とメール送ってみた。
すぐに返事が来た。


From: 成田
Subject: 採れてるよ 
暑いよ。
体大丈夫?


添付されていた写真は、どこか森の中の川。
本当に暑そうだ。

 
Subject: Re:本当だ
To: 成田
暑そうだね。
体は悪くない。ちょっとだけ落ち込んでた。
たまに不安で不安で潰れそうになるの。
もうダメかと今朝思った。ごめんなさい。
でも頑張る。
頑張るから、もっともっとさちを愛してね。


つらかった。
限られた時間を優先するあまり、
ぐちゃぐちゃになっている生活のこと。
期限が迫ってくる恐怖感。
今すぐにでもいなくなってしまうかもという強迫観念。

会ってない時間は地獄のよう。

だからつい
「もうダメかと思った。」
弱音を吐いた。

そんなことは言わない約束。
約束はしていないけれど、暗黙の了解?
すぐに来た返事。


From: 成田
Subject: 
なんでダメだなんて思うの?
夏やすみなのに?


また涙が出た。
もうダメなんだ。この人は。
いかれちゃってる。

心の底から不思議に思ってる風。
それともすっとぼけているのかな?
何も考えてないのかな?
何も不安じゃないのかな?

夢の中の登場人物。
私がダメだと思うはずなどないと?

私の中で、はっきりと理解した。
私が自分のものにしたかった、
あの成田さんは、やっぱりもういない。
夏休みなんて、ただの火遊び。

どうしていいかわからず、
でもこれから現実世界へ戻っていくであろう成田さんと
変な言い合いはしたくなかった。

 
Subject: Re:ごめん
To: 成田
そうだね。
もう大丈夫だよ。
夏休みだもんね。
海行きたいね。
夜でいいから。
お台場じゃないとこ。


来週は、お盆だから。成田さんの定休日、私もお休みだよって
本当は言いたかった。

でも言えない。

成田さんの定休日は成田さんの彼女のもの。

あの人には、これから残りの夏全部、独占していく権利があるのに
どうしてこの夏しかない私が、たった一度の定休日すらもらえない?


返事はなかった。
いつもの火曜日と一緒。

夜遅くなるまで、それっきり成田さんの返事はなかった。
 
 
 
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