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2008年12月25日 (木)

☆第4章 最後の夏休み☆  第27話

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2009年某日

季節は巡る。
私は相変わらず毎週競馬をする。

マイミクになった男の子や男の人達は
「一緒に競馬へ行こう」
すぐに誘ってきた。

毎週、毎週中山へ出かけていく。
毎週、毎週違う人と。

でも私の景色は戻ってこない。

「何を足掻いたって、あの男はもう戻ってこないよ」
まりことは相変わらず毎週のように呑みに行っている。
突然広がった私の交友関係がお気に入りらしい。
私が拾って歩く、つまらない男達を採点してはダメ出しを繰り返す。

「もうやめなよ。くだらないよ」

そう言いながらも楽しそうだ。

知らない人と競馬場へ行って、
知らない人と毎晩飲んで歩く。
でもあの人はいない。
あの人に似た人もいない。

夏の前の私に戻りたい。
でも戻れない。
私が嘘だけで塗り固められた、ゴミのような存在だということを
もう知ってしまったのだから。
あの人は私に現実だけを付きつけた。

私は誰にも求められていない。
私は誰にも大事にされない。
私は一生幸せになれない。

会いたいとは思わない。
会ったところでこれ以上なにも起こらないことは重々承知している。

毎週、馬柱にあの人の残骸を見る。
あの人の好きだった馬。
あの人が本命にしていた馬。
あの人が馬券を取った馬。

そして私はあの人が買ってくれたお誕生日馬券を買い続ける。
1-6-9の3連複。
おまじないのように買い続ける。
あの人はもう買ってはくれないだろうから。

秋の天皇賞、3連複は1-6-9。
3万5千円だった。
ほら、やっと来た!
あの人に教えてあげたかった。
気が付いているかな?
お誕生日馬券。

何かを期待しながら日曜日の朝、
京葉道路を走るのはもううんざりで、
馬券はPATで買うようになった。

マイルチャンピオン、ジャパンカップ、
大盛り上がりのようで、うつろで、上の空。
まるでのぼせているよう毎日がすぎる。
有馬記念に当然カイシュウタキオンなんて出はしない。

私の時間はそれからもしばらく止まったままだった。

相変わらず、中途半端にちょっかいを出してくる神谷君や、
今日に続く明日は淡々と踏み続けるミナちゃん達。
周りを通り過ぎていく男の人、たくさん。
何故かみんな同じような顔をして、同じようなことを喋った。
タカキとは、前と変わらぬ日常が戻ってきた。
また熱が冷めたのか、と飽きれているような、
安心しているような空気を感じる。
言葉には出さないけれど。

全ては何も変わらない。

でも私は知ってしまった。
私が本当に欲しいもの、私が本当になりたいもの。
そんな余計なものを、私は一生抱えて生きていくのだろう。

どうして私が今、こんなものを書いているのか私にもわからない。
愛されていると、確かに私はあの人の一番大切なものであると、
そう信じていたあの夏から、もう1年以上がたった。
所詮は愛されてなんていなかった。
目の前に降って来た幸運を、掴んでおかなきゃ損をする、
でもそのために無くせ無いものは死守する。
そんな打算と期待に溢れたあの人の気持ち、
今ならば手に取るようにわかる。

どうしてあんなものを愛だと呼んだのか?
あの人も私も。
特別な夏だと、どうして思ったのか?

私にはメッセージなんて何も無い。
世界を動かすような力なんて私には無いし、
私のしたことを反省もしていなれば、後悔もしていない。
ただ、私はあの夏のことを、
一刻も早く忘れたくて、でも一片たりとも忘れたくない。

みのらない恋、背徳行為、
そんなものに酔うような
くだらない人間にだけは絶対なりたくない。

こんなことはしちゃいけないと、
言葉では繰り返しながらも続く関係
そんな黴臭い感情とは一生無縁でいたかった。

不倫はいけない、とあの人は言った。
私はわからなかった。
なにがいけないのか。
ばれなければ誰も傷つかないんでしょう。
ばれたとしても、心に正直に恋をして何がいけない?

「人の道だけは外れられない」
そう頑なに言い続けたあの人を不思議に見ていた。
人の道よりも、モラルやルールよりも、
人間には大切なものがあるんじゃないの?

あの人の言った意味
私が知るのはまた次のお話になる。


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜


2008年8月26日


☆新潟記念

中央競馬開催中は、何週間にもわたるかもという懸念もありながら
翌週、無事平常通り開催されることになった。
一度止まったカレンダーは動き出す。
当たり前の週末が当たり前にやってくる。

子供たちの夏休みは残り後少し。
世間一般の夏はまだまだ猛威をふるっているらしく、
日差しの攻撃力は衰えてはいかない。

朝、私は自転車に空気を入れた。

朝まで迷った。
朝一番で錦糸町まで走っていくことにいったいどんな意味が?

でも結局は自転車で京葉道路を走ることに決めた。
これで最後にしよう。
二度と朝、この道を自転車で走ることはやめよう。

京葉道路で成田さんのスクーターに追い抜かれるのが大好きで、
時間が早めだとゆっくり自転車をこいだ。
焼け付くような日差しすら、私には優しかった。
胸が騒ぐ。
条件反射?
もう何も起こりはしないのに、
何かが起こりそうな錯覚、妄想、白昼夢。

赤いスクーターが追い抜いていく。

追い抜く時の成田さんは何故かいつも靴の踵を触ってた。

何故だろうって、不思議で聞いてみた。
「テレ隠しだよ。」即答した。
意味不明だけどなんとなく分かる気もした。

だから、最後に京葉から錦糸町に行こうって決めたあの時、
今までどおりに赤いスクーターが私を追い抜き、
あの人が靴の踵に触ったら、
何もなかったような顔をして、いつものWINS西館2階へ行こうと決めていた。
成田さんはきっと缶コーヒーを買って待っててくれるって。

とんだ夢物語。
夢を見ていたのはどっちだった?
本当は私の方だった?

帽子を深くかぶり、日差しをできるだけ防ぎながら
私は京葉を走る。

三つ目通りの交差点、信号の手前。

追い抜いていく
赤いスクーター

間違いなく、私に気づいた。
不安定に、少しだけ左右に揺れた車体。

追い抜いていく時間は一瞬のはずなのに、
なぜか数分にも思えた。

手が、下に伸びた。

私は見つめる。

息を止めて私は見つめる。

そのまま、足元まで伸びていきそうに見えた手は、
行き場の無いことに気づいたように、膝の上で止まった。

見えたわけもないけれど、
その手が膝をぎゅっと鷲づかみにしている。
そんな気がした。

長くて、骨ばって、冷たいあの人の指。
私に触れることはもうない。


私は四つ目通りを曲がり、東館の駐輪場へ入った。


家に戻る途中、京葉道路に出る前に自転車を停め、
成田さんへメールを打った。


Subject: 新潟記念
To 成田
びっくりしたでしょ?
でももうあの時間にWINSへは行かないから、安心してね。
あなたのそばには二度と現れない。
全部忘れます。無かったことにします。


あの人を、これ以上脅かしても仕方がない。
忘れると、それだけ伝えたかった。

私はまた、あの人に会う前のさちに戻るだけ。
何も変わらない。すぐに取り戻せる。

でも、私は忘れない。忘れられない。

初めて手をつないで帰ったときのこと。
ダービー、駆け抜けるウォッカの馬体。
病院の庭に座ってメールを打った毎日。
花火、見慣れた荒川が別世界に見えた。
船堀タワーの前、この世の終わりのような雷。
お盆の夜の街、夜空がすっごく低くて木が大きく揺れていたこと。


もしも時間が戻るとしても、
あの夏のどこへも戻りたくはない。
やり直したところで、うまくやれた道は今でも思いつかない。

戻れるならば

“大好き”
それだけで、全てが語れた中学生に戻りたい。
そしてあの頃、存在すら知らなかったあの人を探すの。

来年も再来年も10年後も20年後も、
私は甘い思い出を
サトウキビのようにかじって生きていく。

自転車を力いっぱいこいだ。
日が照りつける京葉道路を必死で走る。



これが、あの夏の全て。
 
 
 
 
 
 
 
 
                         「最後の夏休み」完
 
 
 
 
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コメント

むらぴさん

ありがとうございます。
そうですね♪ダービーですね。
もう今はあんまり競馬をしていないんですが
ダービーが近づくと切ない気分になります。

今後ともよろしくお願いしますvirgo

投稿: さち | 2009年5月28日 (木) 09時17分

ただの競馬好きです。
かなりハマリました。
錦糸町のWINSもよく知ってますし…
今週はダービーです。
ウオッカは来週の安田記念ですが…

投稿: むらぴ | 2009年5月28日 (木) 01時10分

ありがとうございます。
とっても嬉しいですo(^^)o
これからもよろしくです♪

投稿: さち | 2009年3月 2日 (月) 09時13分

どっぷりハマって読んでしまいましたsign03
素敵な時間をありがとぅ☆さちサマheart01

投稿: まりこ的な人。 | 2009年2月28日 (土) 09時37分

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